転職のノウハウ

起業経験のある転職は不利になる? ならない?

起業した後、もう一度会社に入ってやり直したいが、久しぶりの転職活動はうまくいくのか。起業経験のある転職は不利なのか、そうではないのか。起業した人がやり直しの転職をして再出発する際に考えておくといいことを人材コンサルタントの小松俊明が解説します。

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド

起業経験から転職活動へ……どう活かす?

企業経験のある転職は不利?

起業経験のある転職は不利?

なぜ人は起業するのか。やりたい仕事がある。ビジネスを所有したい。社長になりたい。金を稼ぎたい。誰にも指図されることなく仕事をしたい。時間に縛られず働きたい。これらは起業する人の動機を表したものだが、一つひとつを見れば、起業しなければ達成できないこととは必ずしも言えないこともある。

しかし、それでも多くの人が起業に挑戦する。それだけ起業には魅力があるのだ。夢や大志を抱き、起業することしか自分には興味がないと考える人も稀にいるかもしれないが、いくつかの点で現状の働き方に満足していないことで、起業に踏み切る人もいるのではないだろうか。

たとえば、若い人であれば、年功序列が残る会社で働くかぎり、誰にも指図されずに働くことは難しく、若手の頃の稼ぎは中堅やシニア社員よりも圧倒的に低くなる。まして社長など、今の自分の位置からは程遠い存在である。

仮に管理職であっても、サラリーマンである限りは、ビジネスを所有することはできないし、稼ぎにも限界がある。もちろん誰もが社長になれるわけではないし、仮に社長になれても、早々に退任することになるかもしれない。そう考えれば、やはり起業とは特別なものである。
 
<目次>
 

起業のイメージは時代とともに変わってきた

起業をする年齢やタイミングは人それぞれ

起業をする年齢やタイミングは人それぞれ

起業する年齢だが、いわゆるITベンチャーを起業したといえば、若い人がインターネットを使ったサービスを始めたことをイメージした時代もあった。しかし、今では65歳の定年前に早期退職した中高年であっても、最先端のITツールを駆使してITベンチャーやコンサルティングサービスを起業する人は少なくない。

起業する理由は人それぞれあるとしても、起業する年齢に制約はなく、職種も多岐にわたる。企業によっては社員の副業を認める会社も増えつつあり、副業は、起業するための良い助走期間にもなっている。

世の中にはインターネットやソーシャルメディア、そして便利なアプリやソフトウェアがそろい、そのどれもが安価で簡単に利用できる。スモールビジネスを始めるための環境は、整備されているのだ。

サラリーマンにとって、まさに起業が身近なものになったのである。コロナ禍によって、在宅勤務をはじめとした多様な働き方にますます弾みがついてきた。今の時代は、誰もが起業を視野に入れる時代がきているといっていいのではないだろうか。

起業の形にはいろいろある。仲間と一緒に始める人、一人で始める人、家族の事業を引き継ぐ形で自らは脱サラし、ファミリービジネスの立て直しに挑戦する人も一種の起業であるだろう。

どの場合でも、起業する時の心構えとしては、従来は自らの退路を断ち、貯蓄した大切な自己資金を事業の運転資金にあてがうか、金融機関や家族等から借金して起業した人が多かったから、起業することは一大決心だったはずである。

しかし、法人設立や維持費が安くなったことや、インターネット銀行が普及し、スマホで決済のすべてが管理できるようになった。オフィスを借りなくてもポータブルなノートブックやタブレット等を使って、自宅やコワーキングスペース等で働くこともできる。

業務を効率化させるさまざまなアプリやソフトウェアもそろい、事業を始めるための初期投資もそれほどいらなくなった。起業に必要な事業資金やさまざまな手間が少なくなったことで、起業するためのハードルは明らかに低くなり、「ちょっと起業でもしてみるか」という具合に、比較的気軽な気持ちで、現在働く会社を辞めて起業に挑戦する人がいても不思議ではない。
 

起業した、でも辞めたくなったら?

起業する動機は先述の通り多岐にわたるが、起業した先には何が待っているのだろうか。会社にとっては事業資金が尽きない限り、事業活動は続けられる。赤字が続き、借金を重ねて、最後は負債を抱えて倒産する会社もあるが、多くのスモールビジネスは、事業の継続の可否は事業資金のキャッシュフロー次第である。

一方、大きな借金や、想定外の大きな出費がなければ、コストと手間が少なく始めた現代版の起業スタイルは、事業活動を意外に長く続けられる。つまり、事業を辞める理由は、資金がなくなった場合だけではないということだ。

たとえば、仕事にやりがいが持てない、思ったほど稼げない、自由な時間は増えず、むしろサラリーマン時代よりも長時間労働をするようになった、収入が不安定で毎月定額の給料をもらえた生活が恋しい、資金的に自転車操業であり、貯蓄がサラリーマン時代ほど増えない、無名の零細企業を運営していることに誇りが持てなくなった、一人で働くのが寂しいなど、起業したことで十分な満足を得られない場合、事業を辞めることが頭をよぎる人もいるのではないだろうか。

当初、起業に対して持っていたイメージと、起業した後の現実の日々が大きく異なる場合、事業資金がショートしていなくても、もう一度会社勤めに戻って再出発しようと考える人がいるのである。実際、最近の転職市場では、新しい傾向として起業したことのある人が転職活動をしているケースが増えてきた印象がある。起業するハードルが下がった分、事業を継続しない判断も早まっているのではないだろうか。
 

起業経験、その後のキャリアにどう活かすか

では起業経験を職務経歴書に書いた場合、どのように見えるか、その一例を示してみたい。たとえば、不動産販売会社で営業経験を積んだ26歳の若手人材のケースとしてみよう。

22歳 都内の私立大学法学部卒業 
23歳 新卒で中堅の不動産販売会社に入社(東京都武蔵野市の賃貸販売を担当)
26歳 3年後に独立:スマホのネット広告販売代理業を行う会社を設立(代表取締役就任)
前職の不動産販売会社の後輩社員2名が事業に参加
30歳 事業を清算して、転職活動中(営業経験を活かした転職をしたいが、
不動産販売以外の業界への転職を希望している)

若手の場合、まだキャリアの年数が短く、業界や職種の専門性が定まっていない。よって30歳での転職活動でカギとなるのは、本人のコミュニケーション能力や問題解決をする際の論理的思考力など、起業経験を経て、どれだけビジネスパーソンとして成長したか、同世代の若手ビジネスマンとの対比をした際、起業経験が本人の成長を加速させたのかどうか、そこが評価されることになる。

では懸念材料はあるだろうか。業界や会社によって企業文化は異なるものだが、多くの会社では異なる世代の社員が一緒に働いていることもあり、その世代間ギャップが生み出す人間関係の悩みは、多くの人に共通して存在しているものだ。

起業した経験がある人の場合、すべて自分を中心に会社がまわっていたこともあり、社内の人間関係に悩むことは会社勤めの頃に比べれば格段に少なかったはずである。それがゆえに、起業した経験がある人が再度他の会社に転職する際、企業文化にうまくなじむことができるか、この点を心配する人は多いに違いない。

これを裏返してみれば、過去に起業経験のあるAさんを新たに採用する検討する際、会社としては、Aさんが入社した後に自社の企業文化にうまくなじんでくれるかどうか、Aさんの性格や生活習慣、仕事ぶりなどについては、慎重に検討する必要が生じる。

具体的には、複数の面接官が、いろいろ仕事に想定される場面についてケースを提示し、その場合あなたならどうしますかというように、Aさんの判断の仕方や行動パターンについて確認することになる。

ここで不合格と判断されれば、企業文化に合わない人材と評価されたことになる。起業した経験のある人は、部下として使いづらいのではないかという見方をする人もいるが、これは個人差がある。

サラリーマン時代よりも、むしろ自営業でスモールビジネスを経営している人ほど、顧客対応がより丁寧になり、人当たりが柔らかくなる人は多いものだ。起業経験が本人のコミュニケーション能力や忍耐力を育て、何でも自分で取り組めるようにもなり、問題解決を含めた顧客対応力も身に着けたことで、採用の現場では、起業経験のある人は、おおむね好評価を得ることの方が多いという印象である。
 

起業には二度目、三度目があってもいい

起業した人が、いったん事業を清算して、新たな会社に転職した後のことについて、最後に書くことにしよう。起業した経緯は人それぞれであるが、一度でも起業を経験したら、二度目のチャンス(タイミングも含めて)に敏感になるものだ。そして二度あることは三度あるともいうように、起業する回数に制限はない。

起業するハードルが低くなり、変化が早い世の中を迎え、ビジネスパーソンの定年年齢は伸び、定年後も元気に働けるし、働くことを望む人、そして働くことが必要な人も増加している。

一度目の起業では、会社を作り、金融機関からの融資を受け、社員を雇い、事業を成長させて、会社を大きくすることを目指した人でも、二度目の起業では、フリーランスとしての働き方を望み、一人会社を設立して、多くのプロジェクトに関わりながら働く起業を選択する人もいることだろう。

起業した経験、会社勤めをした経験、その両方を経験したうえで、自分にとって一番いい働き方を模索していくのが、二度目の起業、三度目の起業になるのかもしれない。

大きな借金をして起業し、事業を辞める時に大きな負債が残っている場合、その清算には5年、10年の月日を要することもあるかもしれない。起業することのハードルが下がったとはいえ、事業にはいろいろなリスクがある。最悪、雇用した社員に会社の資金を使い込まれるようなことすらあるかもしれないのだ。

筆者には、二度の起業経験がある。一度目は20代の時、そして二度目は40代になってからである。それぞれの起業では起業に至った経緯が異なり、それぞれ目標設定も異なる。

一度目と二度目の起業の間には、会社勤めの経験もある。実際にそれらの経験をしてみて思うことは、実際にやってみたからわかったことがたくさんあるということである。失敗して気づいたこともある。無駄な出費をしたから、それが本当に無駄だったとのちに理解できた。

自分が得意なこと、他人から評価されること、社会が必要としていること、それらがあることに気づいたと同時に、その逆もあることがよく理解できた。起業にもいろいろな形がある。そしてその多くの形の中から、自分にマッチした起業の形をみつければいいということについては、起業経験がある多くの人との交流を通じて気づいた。

つまり、起業経験が教えてくれたことを一言で言うならば、「何事も無理を続けてはいけない」という教訓であった。資金繰りはそのわかりやすい例であるが、やりがいを感じないこと、自分が得意でないこと、好きになれないことなども同じである。特に、体力的に無理をして体を壊し、身近にいる人との人間関係も壊してしまっては元も子もない。
 

起業を経験したビジネスパーソンの本懐とは

起業は、始める決意をする時よりも、それを辞める決断の方が何倍も難しく、勇気がいるものだ。起業経験がある人にとって、転職活動を新たに始めることはモチベーションが上がらないこともあるし、転職先を見つけるのに多少の苦労が生じる場合もあるかもしれない。

しかし、起業経験で得たビジネススキルと様々なノウハウは、その後の会社勤めでも、はたまた二度目以降の起業にも活かせることだけは間違いない。人間万事塞翁が馬(故事:幸せが不幸に、不幸せが幸せにいつ転じるかわからないのが人生であり、安易に喜んだり悲しんだりはしないほうがいいという意味)というが、起業した経験、再度会社勤めした経験、二度目の起業に挑戦するなど、人生は長い旅である。

多少の有利・不利など、その時々に幸不幸の差はあるものだが、いかなる時もスキルを磨き、ノウハウを蓄積することが大切である。そして最も大切なのは、家族や友人、取引先やビジネス仲間との心の交流を続け、あまり欲張らず、何事にも誠実さを保つことではないだろうか。

人生100年時代というと、気が遠くなるほど長い時間を想像するが、実は社会に貢献できたことを実感できる時間は、それほど長くないものである。しぶとくサバイバルして、あとは晩節を汚すことがないよう、謙虚に、誠実に歩みを進めること、それがビジネスパーソンの本懐(成就したい希望や願い)ではないだろうか。

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