夫の不倫で「もう無理」となった
信頼していた夫が、結婚6年で不倫をした。しかも相手には独身と偽っていたらしい。そんな夫とはもうやっていけないと、リサさん(49歳)は判断した。30歳で結婚して翌年、娘を出産。娘が5歳のときに離婚した。「夫は離婚したくないと言っていましたが、私は独身と偽って相手の女性をだましていた夫を人として信用できなかった。はっきりそう言いました。娘にだけは会わせてほしいと夫は泣いていた。娘もパパが大好きだったから、養育費をきちんと払ってくれるなら会わせると約束しました」
ところが養育費が振り込まれたのは最初の半年ほど。勤務先の会社の業績が悪化し、生活するのがやっとだから少し待ってほしいと連絡があった。リサさんだって生活は苦しかった。1人で子どもを育てていくのは心身ともに疲弊した。それでも娘には何の罪もない。立派に大きくしてみせると頑張っていたのだ。
甘い顔はしたくない
「あなたの子なんだからね、養育費を払わなければ会わせないからと私もかたくなに会わせなかった。数カ月後、養育費の振り込みが再開されました。それで娘に会わせたんですが、元夫は副業を始めたから、なかなか寝る間もなくてと疲れた表情で現れた。大丈夫かなと思いましたが、そこで甘い顔はしたくなかった」小学校高学年になったとき、娘が「パパには会いたくない」と言い出した。それも夫に伝えた。元夫は分かったと言ったが、養育費の振り込みは続いた。
「私ができることは夫の悪口を吹き込まないことだけ。夫が娘を思う気持ちは分かるから。娘には『パパはあなたに会いたいって』と伝えていました」
中学生になったとき、元夫から娘に手紙が来た。娘はそれを読んで『パパに会ってもいいよ』と言うようになった。
紆余曲折あったけれど
中学生になった娘は、時々父親と会っていたようだ。そのころはリサさんは会う日時を聞くだけで一緒には行かなかった。だいたい月に1、2度の頻度で食事をしたり休日に映画を見に行ったりしていたという。その2年後、元夫が「再婚しようと思う」と連絡してきた。娘がどう思うかが心配だったが、それ以前に「再婚したい相手が妊娠した。養育費を減らしてもらえないか」という話だったのだ。リサさんは激怒、「娘に過去の全てを打ち明ける」と強気に出た。
数週間後、元夫は「妊娠はしていたけど、オレの子じゃなかった」と連絡してきた。
「なんだか夫が少し哀れになってしまいました。だまされて結婚するところだったわけですからね。その彼女、夫と別の彼と二股をかけていたようです。別の彼が出生前DNA鑑定をしてほしいと言い出して鑑定したら、その人の子だった。だからごめんねと言われたそうです。相変わらず脇が甘いというか。信じていたのにと嘆くから、私が信じていたあなたに裏切られたときの気持ちが分かったでしょと言ってやりました」
元夫はいくつになっても、どこか女性にだらしないとリサさんは怒るが、その一方で「優しい人ではあるんですよね」としみじみ言った。
娘が18歳になって
その後、娘は難関の私立大学付属高校に合格した。元夫に入学金や学費を折半してもらえないかと言うと「分かった」と元夫は言った。娘は18歳になった。成績がいいので国公立大学を狙うか、あるいはこのまま上の大学へ進むかを考えているようだ。
「娘の18歳の誕生日、私も久々に元夫に会いました。月々の養育費ももういいよと伝えたくて。元夫は学費だけは大学を卒業するまでオレが全額払うと張り切っていた。そんなに給料が増えたわけでもないでしょうから、おそらくボーナスを全額、学費に回すつもりなんでしょう。娘が席を外したとき『立派に育ててくれてありがとう』と言われたけど、あの子は私の子でもあるんだから当然でしょと。いろいろあったけど、あなたが責任を果たしてくれたことには感謝すると言いました」
もちろん、リサさんは元夫とヨリを戻すつもりは毛頭ない。だが、いろいろあっても最後まで子どもに対して責任を果たそうとしている元夫に、最低限の敬意は持っていると言った。
「世の男性を庇う気はないけど、一緒に住んでいない子どもの養育費を払い続けるのは案外、大変かもしれない。もともと男性は出産するわけじゃないから、どうしたって子どもへの愛着が母親より薄いと思うし。それでも元夫の場合は、養育費さえ払えば娘に会えるというのがモチベーションになったのかもしれません」
今後、共同親権を選択した際に親子関係の実態がどう変わるかは分からないが、「子どもに対してだけは父母どちらも同じような責任感を持ってほしいですよね。そして最低限の敬意を互いに払えるような態度を見せ続けないと、最後は子どもに軽蔑されるかもしれない」とリサさんは言った。
<参考>
・「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」(厚生労働省)