マネジメント

絶対権力者、無言の圧力…フジテレビ問題から考える、不祥事を生む「悪しき組織風土」がつくられるワケ

男性タレントによる女性アナウンサーへの性加害に端を発したフジテレビ問題。第三者委員会は同社のコンプライアンス意識の欠如、ガバナンス不全を糾弾しました。企業不祥事を発生させる悪しき組織風土はいかにして生まれるのか、そしてその予防策を考えます。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

企業不祥事はなぜ起きるのか、その原因と予防策を考えます ※画像はイメージ

企業不祥事はなぜ起きるのか、その原因と予防策を考えます ※画像はイメージ

フジテレビ番組の司会などを務めていたタレントによる同局アナウンサーに対する性暴力に関して、中立な第三者委員会の報告書が公表され、役員を含む同社社員のコンプライアンス意識の欠如、およびガバナンス不全について、厳しく糾弾されました。

本件を含め企業不祥事が明るみに出るたびに、その発生原因としてほとんどのケースで問題視されるのが「組織風土」です。企業不祥事を発生させる「悪しき組織風土」はいかにして生まれ、それを生まないためにはどうしたらよいのでしょうか。
 
<目次>
 

逆らうことのできない「絶対権力者」の存在

多くの調査報告書で不祥事発生時の状況として明らかにされているのは、「上司の命令に反論できず、不正に手を染めた」「無言の圧力を感じて、不正と知りつつ業務を遂行した」などの事実です。

明確な指示・命令があろうとなかろうと、絶対権力者がいてその人物に逆らうことが仕事上で自分の不利益になり、最悪は職を失うかもしれないという懸念があるケースでは、権力者の機嫌を損ねたくないがゆえにたとえ不正と分かっていても、それに手を染めてしまうケースが間々あるのです。一昨年大きな社会問題となったビッグモーター社の損害保険不正受給問題などは、こういった「悪しき組織風土」の代表例と言えるでしょう。

フジテレビのケースも、これに非常に近しいものがあります。今回のケースでは、被害者である女性アナウンサーが同局の人気番組の司会を務めるタレントから食事の誘いを受けた際に、「もしこれを断って、そのことが上司の耳に入ったら、今後自分の仕事が減らされてしまうかもしれない」という懸念から断ることができず被害に遭った、と調査書には記されています。

自分が不利益を被りかねないという懸念から、取りたい対応が取れない、言いたいことが言えない、といった状況を「心理的安全性が欠如している」と言います。
 

日本人がつくる組織の大きな特徴2つ

絶対権力者が存在しなくとも同じように、言いたいことが言えずに社員を不正に走らせてしまう「悪しき組織風土」は存在します。トヨタ自動車グループをはじめ自動車業界を震撼(しんかん)させた認証検査不正問題や、神戸製鋼、三菱電機など日本を代表するような名門企業で相次いでいる製品検査不正の類は、その代表例です。

これら大企業は、基本的にオーナー系ではなくトップはあくまでサラリーマンであり、絶対権力者が不在のケースであるにもかかわらず、同じような不祥事が発生しているのです。

その理由と思しきものに、それら企業の共通項として“戦後復興の中で昭和の高度成長を支えてきた”という特性があります。第二次大戦後に急成長した名門企業たちは、その組織管理において、旧軍隊をはじめとした国家組織を手本としていました。

そしてその基本をなす考えは、「本社>現場」という絶対的なヒエラルキーであり、言い換えれば、本社は頭脳で現場は手足という考え方が、長らく多くの企業組織を支配してきたのです。したがって、絶対権力者のトップがいない組織においても、無言の上意下達意識は存在するのです。

さらに、これらの組織風土醸成のベースになっているのが、日本人がつくる組織の特性です。著作『カルチャー・マップ』で各国の組織文化の違いを明らかにした、米国ビジネススクール教授のエリン・メイヤー氏によれば、日本の組織文化には大きく2つの特徴があると言います。

1つは「明確な階層主義」。もう1つは「コンセンサス(合意)重視で、かつハイコンテクスト(暗黙合意による意思疎通)の文化的素地」があり、これらが絡み合うことで他国には見られない「特異でかつ風通しの悪い組織」をつくり出しているというのです。

すなわち、階層主義が上意下達の土壌をつくり、暗黙合意の重視が上位者から下位者への無言の圧力を生んで、反論はもとより思ったことが言えない組織文化を醸成してきたと言えるのです。これは、絶対的権力者の有無にかかわらず、階層主義が厳然と存続している昭和の名門企業においては、いつ何時、同じような企業不祥事が起きてもおかしくないということになるのです。

 

不祥事を生む「悪しき組織風土」をつくらないために

では、そうならないためにはどうしたらよいのでしょう。最も大切なことは、「誰でも、誰に対しても、いつでも、言いたいことが言える」組織風土をつくり上げることに尽きるでしょう。たとえ相手が、経営者、上司、本社、親会社であろうとも、間違っていると思う指示・命令にはNOと言える組織風土です。

特に上に立つ者はたとえカリスマ経営者であっても、「指示・命令コミュニケーション」だけではなく、日常的に積極的な「聞くコミュニケーション」を心掛けることが大切です。言いたいことが言えるということは、上司側に聞く姿勢があるということが大前提になるからです。同時に、「本社>現場」ではないフラットな組織をつくることも重要でしょう。

昭和の名門企業の多くは、「働きがい」はあるものの「働きやすさ」に欠ける“モーレツ型”の社風で成長をしてきたという歴史があります。ただ今の時代は、「働きがい」に加えて、いかに「働きやすさ」を実現していくか、それこそが求められていると思うのです。

「働きやすさ」の根源は、誰もが言いたいことが言える「心理的安全性」が確保された職場環境づくりから始まると考えます。21世紀の企業には、「働きやすさ」を実現して不祥事を生む「悪しき組織風土」の醸成を予防する、そのような経営姿勢が求められているのです。
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