娘たちのことはかわいがっているのだが……
「うちは職場で知り合って結婚しました。私は退職して、出産後しばらくしてから転職したので、夫より収入が低い。お互いにだいたいの収入を申告、そこから生活費などの割合を決めました。あのころは夫も家庭を一緒に作っていこうと協力的だったんですけどね」過去を振り返りつつそう話すユミさん(43歳)。ふたりの娘たちは10歳と8歳になった。放課後は近所に住むユミさんの実母に頼ることも多いが、夫はそれをあまり快く思っていないようだ。だからといって夫が早く帰ってくることはめったにない。
「それでも娘たちのことはかわいがっています。私から見ると少し歪んだ愛情のように見えるけど、今のところ娘たちはパパが嫌いではないみたい」
ユミさんが「歪んでいる」というのは、テレビでアイドルを見て騒いでいる娘たちに「こんな男のどこがいいんだ」などと言い放つところだ。言ったあと、夫もしまったと思うのか「パパのほうがずっといいだろ」と冗談でごまかすのだが、夫は娘たちが異性に興味をもつことを阻止したがっているとユミさんは感じている。
釈然としない夫の言動に目をつぶる生活
「そういえば恋愛中、夫は私の行動を束縛することが多かった。あのころは私のことが好きだから、心配してくれているんだと思っていたけど、今思えば支配欲が強いほうなんでしょう」転職したときも「母親は家にいたほうがいいんじゃないか」とさんざん言っていたが、ユミさんは娘たちのためにも、そして自分の人生のためにも新たな仕事を求めた。
「うちの会社は最近、リモートでも仕事をしていいことになりましたし、出社時間も自由度が高いので助かっています。でも夫は『そんな企業でよくやっていけるな』って。確かに夫と知り合った前の会社は有名企業だったけど、私は今の中堅企業のほうがずっと働きやすい。私の給料は娘たちの将来の学費のためになるべく預金しています。夫は自分の楽しみにもけっこう使っていますが、そこは見て見ぬふりをするようになりました」
年に2回、家族旅行をするときは夫が全額もつ。それが習慣となっている。夫は「パパが連れていってやる」と言って娘たちに感謝されたいのだ。釈然としない思いもあったが、ユミさんは率先して「パパ、ありがとう」と言い続けてきた。
娘たちと遊びに行ったら
昨年の夏、夫は10日ほどの出張で家を空けた。普段はせいぜい1泊なのだが、部署を超えたプロジェクトの中枢チームに選ばれたため多忙な日々を送ることになったのだ。「だから夏の家族旅行も中止になりました。子どもたちはがっかりしていましたし、夫も『ごめん。来年の夏は海外にでも行こう』と言って許してもらっていましたね。ただ、私は休みがとれたし、夫のいない間に娘たちをどこかに連れていくつもりだった。夫には言っておいたんですよ、どこかに連れていくからって。でも夫は忙しくてきちんと把握していなかったんでしょうね」
結局、5日間の北海道旅行をした。レンタカーを借りて海沿いを走ったり、おいしいものをたくさん食べたり。娘たちはよほど楽しかったようで、夫が出張から帰ると、ふたりで我先にと報告を続けた。
「夫は聞いていましたが、娘たちが寝たあと、3人で旅行するなんて聞いてない、と。いや、言ったでしょう、聞いてないというやりとりがあって、『だいたい女3人で旅行するなんて無謀だ』『来年、オレが北海道に連れていこうと思っていたのに』とわけのわからない怒りをぶつけてきました。いや、あなたは来年は海外へ連れていくって言ったじゃんと思ったけど、逆らうのも面倒なので黙っていました。何も言わないために、夫はよけい腹の虫が治まらなかったのか、『だいたい、オレが重要な仕事を任されて出張しているときに妻子が遊ぶか?』『旅行費用がもったいないわ』などと言いだしたんです」
夫の仕事は夫のもの、それによる対価を家族のために使うのが嫌なら結婚などしなければいい。ユミさんはそう思っている。しかもその旅行費用はユミさんが出したのだ。それでも彼女は言い訳ひとつしなかった。
夫のモラハラ気質をはっきり認識
「言い訳はしなかったけど、夫の文句に対して謝るつもりもなかった。私は母親として娘たちを喜ばせたかっただけ。それでも夫がグチグチ言うので、旅行費用は私が出したとだけ伝えました。そうしたら『金出せば何をしてもいいのか』って。意味がわかりませんでした」結局、夫は仲間はずれにされたのが悔しいのだ。楽しい旅行ができてよかったねと言うだけの器がない。娘と母親が仲よくしていることに拗ねてもいるのだろう。娘たちが小さいころ、「ママよりパパが好きだよね」と聞いているのを知って、そういうことだけは言わないでと阻止したことがある。あのころから夫の愛情は歪んでいたと、ユミさんは改めて感じたという。
「今のところ、大きなケンカにはなっていませんが、うちの夫はけっこうなモラ夫だとはっきり認識しました。今後はより注意しながら生活していかなければと思っています」
どこかで反撃する日がくるのか、あるいは夫をうまく懐柔していけるのか。いずれにしても「幼稚な夫」にあきれていますと、ユミさんは突き放したように言った。